【聖霊降臨節第17主日】
礼拝説教「命にもまさる恵み」
願念 望 牧師
<聖書>
詩編63:2-6
ルカによる福音書11:45-54
<讃美歌>
(21)25,3,155,518,65-1,29
ファリサイ派や律法学者への主イエスの厳しい言葉が記されています。当時の教会は、彼らのことをどう思っていたでしょうか。自分たちとは違う、かつて主イエスに反対し、主イエスを十字架にかけて殺した指導者たちと見なして、その彼らへの言葉としてだけ聞いたのでしょうか。決してそうではなかったはずです。
ファリサイ派や律法学者が陥った過ち、罪は人の罪深さが招くものであって、いつも時代にも気をつけるべきものです。
彼らが陥った罪はどのようなものだったのでしょうか。それは信仰生活が自分の正しさを積み上げるためのものになっていったのです。主なる神をたたえ、罪赦されたことを感謝して礼拝生活を生きていくのではなく、自らの正しさを喜び、他者を批判していくことに徹していくようなものだったのです。
人は自分を正しいところにおいて、他者を批難していく中で生きていくところがあります。ファリサイ派もまた、批判する対象、罪人と呼ぶ人たちをつくったと言われます。徴税人がそうです。ユダヤ人でありながら、ローマ帝国に税を納めることに仕えていたからです。また、ファリサイ派のつくった決まり事を守れない人々を罪人と呼んだようですから、たいていの人は罪人とみなされていたことになります。
しかし主イエスは、そのような、人がつくりあげた偏見からはまったく自由に、当時の社会で罪人と呼ばれた人々とも食事をされたのです。聖書で言う罪人は、すべての人がそうです。神がご覧になれば、私どもすべては赦しを必要としている罪人なのです。
主イエスはファリサイ派からの招待も喜んでお受けになりました。彼らのことを受け入れ、愛して御自分の救いに招き入れておられるのです。律法学者に対してもそうです。その愛ゆえの厳しさなのです。
自らの正しさに生きるファリサイ派を、律法の専門家として後押ししていたのが律法学者です。ですからファリサイ派が批判されることは、自分たちへのことでもありました。(45)
主イエスは思いを込めて語りかけられました。「あなたたち律法の専門家も不幸だ。」(46)この「不幸だ」と訳されている言葉は、元々は「ウーアイ」という言葉です。悲しみや痛み、嘆きを表す感嘆の言葉です。
主イエスは律法の専門家のことを心にかけて悲しんでおられます。「ウーアイ」と、うめくように心にかけておられるのです。その主イエスの思いはまた、私どもにも向けられていることを信じて、ルカは記しているのです。また初代教会の者たちも、そのように主イエスの言葉を聞いたはずです。
罪という言葉は、元々聖書では、的外れとか、ずれているという意味合いです。どこからずれているかというと、神の御心からずれている、別な言い方をすると神との関係がずれているということです。
律法の専門家のずれはどこにあったのか。それは神の赦しに生きていないことでした。神の慈しみ(愛)とずれたところに生きて、むしろそれをさえぎるような歩みをしていたのです。
さて、詩篇63編は、初代教会において、非常に親しまれた詩編です。主イエスが「幸い」(11:28)と言われた「神の言葉を聞き、それを守る人」の姿があります。すなわち主の恵みに生きる人の姿があるのです。
詩編63篇で信仰者は「あなたの慈しみは、命にもまさる恵み」(63:4)と告白しています。この告白を味わって、私どもの告白ともさせていただきたいと思います。初代教会が「あなたの慈しみは、命にもまさる恵み」と告白して祈っていたころは、どんな状況だったでしょうか。
ルカによる福音書が記された頃は、また初めて書き写されて回覧された頃は、非常に迫害の厳しい時代でした。いつも殉教の死と背中合わせであったと言えます。詩編63編も、命を奪おうとする人たちに囲まれたそのただ中で、礼拝へと集う人たちの祈りとして受け継がれていったのです。
主の愛、赦しと憐れみに生きることは、この肉体の命にもまさる恵みとして、「あなたの慈しみは、命にもまさる恵み」と告白したのです。
初代教会は、たとえ地上での命が奪われようとも、主の慈しみに生かしてくださいと祈ったということです。
主の救い、すなわち主イエスが私どものために命を献げて愛してくださった、その神の愛にまさるものは何もありません。私どもも、「あなたの慈しみは、命にもまさる恵み」と告白して主をたたえることができるのです。
このあと、敬老祝福をいたします。命のまとめの時期を生きておられる方を祝福しますが、「あなたの慈しみは、命にもまさる恵み」と神の愛に生きる喜び、感謝がさらに深められるよう祝福を祈ります。
どうか私ども一人一人が益々主イエスとつながって、神の愛に生きる喜び、感謝を深めていきましょう。
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